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【更新情報】P.W.ジョイス「マールドゥーンの航海」

Web サイトにP.W.ジョイスの中篇「マールドゥーンの航海」の翻訳を追加しました。
父の仇を求めて西の海をさまよう英雄マールドゥーンが訪れた奇想天外な島々の物語。

アイルランドの神話・伝説は、テーマや扱っている人物群によっていくつかに分類され、「神話サイクル」、「アルスター サイクル」などと呼ばれていますが、なかに「航海譚(イムラウ)」と呼ばれる、文字通り主人公が何らかの理由で航海に出かけ、さまざまな不思議な島を巡るという型があり、「マールドゥーンの航海」はその一つです。

この物語の成立は8世紀に遡るとされています。すでに異教の時代ではなく、物語にも聖者・隠者・海の巡礼など、キリスト教の要素が表れていますが、同時にドルイドや海の彼方の常若の島といったキリスト教以前からのモチーフも混じりあっています。

仇討ちの旅という全体の枠のなかで、奇怪な獣や巨人などの緊張と、美しい乙女の歓待などの弛緩というパターンを繰り返し、予言の成就と和解にいたるという構成はなかなか巧みに思われます。一度出てきた島のエピソードが、後の別の島でより展開された形で繰り返されたり、旅の最初ではあまり人間が出てこないが、後になるといかにも人間らしい人間が出てきて主人公たちと関わるようになるというパターンも読み取れるように思います。

アイルランド語の写本から英語に物語を翻訳した著者のP.W.ジョイスは、マールドゥーンの出生にまつわるエピソードなど、道徳的に表現をやわらげたとおぼしき点もあり、全体として英雄マールドゥーンの高潔さが際立っているように思います。

邦訳として、「ユリイカ臨時増刊号―総特集:死者の書」のアード・フィン原詩、ケイトリン・マシューズ英訳、安野玲 訳「マルドゥーンの航海――ケルトの死者の書から」、および中央大学人文科学研究所編『ケルト―生と死の変容』所収の松村賢一「冒険と航海の物語」のあらすじ紹介を参照し、固有名詞の表記等参考にさせていただきました。ただし、この二つとジョイスの版では、おそらく元にしている写本自体の違いと、アイルランド語の原文の解釈の違いによるのだと思いますが、エピソードの順序や細部が異なっているところがあるようです。

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