【更新情報】レディ・グレゴリー『神々と戦士たち』「モイ・ティラの大戦」と「ルーの秘密の館」

Web サイト影青書房にレディ・グレゴリーによるアイルランド神話の再話『神々と戦士たち』の二巻第三章「モイ・ティラの大戦」と四章「ルーの秘密の館」の翻訳を追加しました。
 
長手のルー率いるトゥアハ・デ・ダナン族と邪眼のバロール率いるフォモール族の決戦から、モイ・ティラの大戦後のルーの消息。

白眉はやはりモイ・ティラの大戦での激しい戦いの描写。どことなくホメロスの『イーリアス』を思わせるようなところもあります。

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【更新情報】レディ・グレゴリー『神々と戦士たち』「トゥレンの息子たち」

Web サイトにレディ・グレゴリーによるアイルランド神話の再話『神々と戦士たち』の二巻第二章「トゥレンの息子たち」の翻訳を追加しました。
〈長手のルー〉の父キアンを殺した罪の償いに難題を課せられたトゥレンの三人の息子たちの物語。

このトゥレンの息子たちの物語は、白鳥に変えられたリールの子供たちの物語、悲しみのディアドラの物語と合わせてケルト三大悲話と呼ばれています。

Myles Dillonの『Early Irish Literature』によれば、トゥアハ・デ・ダナン(Tuatha De Danann)と呼ばれる一族のうち、本来De Danannと称されたのは、ブリアン、イウハル、イウハルバのトゥレンの三兄弟であり、それがどういうわけか他をも含むようになったという説があるそうです。また、トゥアハ・デ・ダナンは、魔法に長けた人々ではあっても、いわゆる信仰の対象としての「神」とは描かれていないけれど、この三兄弟については「三柱の神」と記されているとも。

ひょっとすると、トゥレンの息子たちは古い古い民族の神で、かれらの物語には、古い民族の神が新しくやってきた民族の神によって追放されたといった経緯が反映されているのかもしれない、などとも想像をかきたてられます。

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【更新情報】レディ・グレゴリー『神々と戦士たち』「ルーの到来」

Web サイトにレディ・グレゴリーによるアイルランド神話の再話『神々と戦士たち』の二巻第一章「ルーの到来」の翻訳を追加しました。
フォモール族に苦しめられるトゥアハ・デ・ダナンの救世主となる英雄神、〈長手のルー〉の誕生と生い立ち。

前回、一巻の「トゥアハ・デ・ダナンの到来」を載せたときは更新情報を書き忘れていたので、ここで作者であるレディ・グレゴリーと作品について少し。

レディ・グレゴリーは 1852 年にアイルランドのイギリス系地主階級の家に生まれ、同じ地主階級のかなり年長の夫に嫁いで寡婦となった後、イエィツらの文学運動に共鳴して文筆をこころざします。そのため、主な著作活動期間は、80年の生涯のうち 40 才以降の後半生になりますが、その間、民間伝承の採集から始まり、国民演劇の確立を目指したアビー座の設立と運営、そのアビー座の当たり演目となった数々の喜劇の執筆など、非常に精力的に活動を続けました。

レディ・グレゴリーの比較的初期の著作に属する『神々と戦士たち』は、アイルランドの神話・伝説を英語によって語り直したものであり、北から雲に乗ってアイルランドにやってきたと言われる神の一族トゥアハ・デ・ダナンを扱った第一部と、より後の時代に威勢を誇ったフィアナ戦士団とその首領フィン・マックールを扱った第二部により構成されます。これより先に上梓された、アルスターのコノール・マクネッサ王と赤枝戦士団およびアイルランド最大の英雄クーフリンを扱った『ムルテウネのクーフリン』と合わせて、アイルランドの神話・伝説群をかなり広範にカバーしています。

レディ・グレゴリーがこれらの著作を執筆した動機としては、アイルランドの文学的遺産である神話・伝説をより親しみやすい形で多くの読者に届けたいという思いがあったようです。当時、民族意識の高まりとともに、中世以降に古アイルランド語で写本に記された神話・伝説のテキストやその翻訳が盛んに出版されており、古アイルランド語に詳しくなかった作者は、それらの翻訳や研究資料をもとに、断片的なエピソードの取捨選択や関連付けを行って二冊の本をまとめあげました。

『神々と戦士たち』(それに『ムルテウネのクーフリン』も) は、アイルランド語の影響を受けた英語の方言であるアングロ・アイリッシュを取り入れた文体で書かれています。現代の通常の英語 (アメリカ英語?) に馴染んでいる身からすると、時にまだるっこしい、あるいは古めかしいと感じられますが、おおむね平易でよみやすく、詩的な美しさがあります。

今後、『神々と戦士たち』の第一部をとりあえず途中まで、その後第二部をできるところまで (とにかくエピソードが盛りだくさんなので全部は無理かも) 翻訳して公開できればと思っています。

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【更新情報】P.W.ジョイス「マールドゥーンの航海」

Web サイトにP.W.ジョイスの中篇「マールドゥーンの航海」の翻訳を追加しました。
父の仇を求めて西の海をさまよう英雄マールドゥーンが訪れた奇想天外な島々の物語。

アイルランドの神話・伝説は、テーマや扱っている人物群によっていくつかに分類され、「神話サイクル」、「アルスター サイクル」などと呼ばれていますが、なかに「航海譚(イムラウ)」と呼ばれる、文字通り主人公が何らかの理由で航海に出かけ、さまざまな不思議な島を巡るという型があり、「マールドゥーンの航海」はその一つです。

この物語の成立は8世紀に遡るとされています。すでに異教の時代ではなく、物語にも聖者・隠者・海の巡礼など、キリスト教の要素が表れていますが、同時にドルイドや海の彼方の常若の島といったキリスト教以前からのモチーフも混じりあっています。

仇討ちの旅という全体の枠のなかで、奇怪な獣や巨人などの緊張と、美しい乙女の歓待などの弛緩というパターンを繰り返し、予言の成就と和解にいたるという構成はなかなか巧みに思われます。一度出てきた島のエピソードが、後の別の島でより展開された形で繰り返されたり、旅の最初ではあまり人間が出てこないが、後になるといかにも人間らしい人間が出てきて主人公たちと関わるようになるというパターンも読み取れるように思います。

アイルランド語の写本から英語に物語を翻訳した著者のP.W.ジョイスは、マールドゥーンの出生にまつわるエピソードなど、道徳的に表現をやわらげたとおぼしき点もあり、全体として英雄マールドゥーンの高潔さが際立っているように思います。

邦訳として、「ユリイカ臨時増刊号―総特集:死者の書」のアード・フィン原詩、ケイトリン・マシューズ英訳、安野玲 訳「マルドゥーンの航海――ケルトの死者の書から」、および中央大学人文科学研究所編『ケルト―生と死の変容』所収の松村賢一「冒険と航海の物語」のあらすじ紹介を参照し、固有名詞の表記等参考にさせていただきました。ただし、この二つとジョイスの版では、おそらく元にしている写本自体の違いと、アイルランド語の原文の解釈の違いによるのだと思いますが、エピソードの順序や細部が異なっているところがあるようです。

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The Haughty Father

フィオナ・マクラウドのエッセイによれば、高慢なる父 (Athair  Uaibhreach) はゲール語でサタンを指す言い方であるとか。

『誇り高き父は、誇り高く花々しい天使、「悪の父」サタン』とマクラウドのエッセイを紹介して片山広子 (松村みね子) は書いています。(『燈火節』所収 「蝙蝠の歴史」)

また「神の兄」とも呼ばれ、かつてこの世を支配する神だったが太陽の子 (Mac Greinne、アイルランド神話の王の一人の呼び名だが、この場合それを指しているのかどうか?) に西の海の下と北の果ての二つの都に放逐されたという伝説を聞いたことがあるともマクラウドは書いています。(Fiona Macleod "The Hill-Tarn")

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【更新情報】フィオナ・マクラウド「愚者」

Web サイトにフィオナ・マクラウドの短編「愚者」の翻訳を追加しました。

Under the Dark Star シリーズ最終作となります。
二人のアラスターの邂逅と癒しの奇跡。

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イーとエーニャ、アラスターとエスレン

誇り高きアラスター」には前に載せた「黒い瞳のエーニャ」の一部が引用されています。
この二つに出てくる人名について少し。

イー、エイ等と発音するらしい Aodh は、アイルランドの神話や伝説によく出てくる名前です。たしか、リール神の白鳥に変えられた四人の子供たちの一人もこの名でした。語源的には「炎」を意味するそう。

エーニャ (Enya) はアイルランドの歌手エンヤが有名ですね。Enya の本名の綴りは Eithne ですが、ほかにもさまざまなバリエーションがあり、エスレン (Ethlenn) はそのひとつ。やはり神話の女神の名であり、代表格は光の神ルーの母。Aodh 同様に「炎」に関係のある名前のようです。

アラスター (Alasdair) は、ギリシャ語起源の英語名 Alexander のゲール語化した形なので、これだけ系統が違います。
「誇り高きアラスター」で「その時代の名前じゃない」と言われているのはそのためです。

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【更新情報】フィオナ・マクラウド「誇り高きアラスター」

Web サイトにフィオナ・マクラウドの短編「誇り高きアラスター」の翻訳を追加しました。

Under the Dark Star シリーズ5作目。グルームは次なる標的として兄と同じ名の誇り高き男を選ぶ。
このアラスターは七兄弟の長兄とは別人です。いいとばっちりでお気の毒……。
邪悪を象徴する登場人物グルームですが、行動の動機は優れた立派なものへの妬みであり、物理的な攻撃よりは心理的な攻撃を本領とするというのがよくわかります。

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【更新情報】フィオナ・マクラウド「黒い瞳のエーニャ」

Web サイトにフィオナ・マクラウドの短編「黒い瞳のエーニャ」の翻訳を追加しました。

いにしえの〈琴弾き〉イー王と黒い瞳のエーニャの物語

これまでに公開したマクラウドの「昏い星の下に」シリーズの作品は、作者の同時代か少し前くらいの話ですが、この「黒い瞳のエーニャ」は、ずっと古い伝説の時代を扱っています。
そのためか、松村みね子訳『かなしき女王』に収められた、やはり神話や伝説を題材とした物語群とも通ずる雰囲気を持っているように思います。

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Children of the Dark Star

フィオナ・マクラウドの「昏い星の子ら」。タイトルとして格好をつけるためということもあって「昏い星」とした"Dark Star"ですが、視覚的に暗い星というよりは不吉な星、不運の星、悪い星回りというような意味合いかと思います。

西洋占星術では人の誕生時に支配的な位置にあった惑星によって人の気質が左右されるという考えがあるようですが、それでゆくと、たとえば憂鬱の星である土星がこのDark Starにあたるかもしれません。

アラスターとグルームという対照的に見える兄弟が、ともに同じ星の下に生まれているというのは象徴的に思います。他の兄弟は、なんとなくシェイマスは金星、マーカスは火星、という感じ。

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